TSUKIZAKI
CONSULTING OFFICE

業務改善活動のすすめ

1.改善活動とは

オフィス業務に潜むムリ・ムダ・ムラを削減する小集団活動により経営効率を高めることを目指す取り組み。

改善は、ある仕事から隠れたムリ・ムダ・ムラが顔を出した時に、その仕事の作業手順や業務の流れ(ワークフロー)を書き出し俯瞰する(見える化)ことで、ムリ・ムダ・ムラを見付け、作業手順や業務の流れを変えることにより、その仕事をよりシンプルに、また、短時間に出来るようにする。

 普通ムリ・ムダ・ムラは気付かずに為されていることが多く、決められた事だからとか、前からされていたからと、疑問を感じず隠れてしまっている。しかし、何かの折にふと問題に思う(隠れたムリ・ムダ・ムラが顔を出す)こともあり、それを見逃さず改善することで仕事の効率が高まる。

改善は、コスト引き下げを目論む「コスト削減」とは異なりムリ・ムダ・ムラを削減する事を目的とする。コスト削減は革新的なコストの引き下げにより競争力が高まるならば良いが、短絡的なコスト削減により業務の価値を損なうこともある。改善活動ではあくまでも仕事に内在する不要なムリ・ムダ・ムラの削減を目指す。

この活動は主に労働時間の削減に繋げる。オフィスワーカーの労務費は管理会計上は固定費に含まれる為、直接的に固定費の引き下げに繋がらないことも多い。しかし、作業時間の削減を「残業の削減」に繋げることで人件費の削減も可能となり、今求められる働き方改革にも繋げることも出来る。
更に、その削減した時間を他の価値ある仕事に振り向けることも可能である。目先の仕事に追われる状態から収益を生む業務や開発的な業務に取り組むことで組織の価値を高めるのは重要なことである。

この活動は「もの作り」から生まれた取り組みであり、生産活動における発想が取り入れられ、人間関係の構築を重視する営業の人達からは敬遠されることが多い。しかし、営業の内勤業務にもムリ・ムダ・ムラが隠れていることも多く、その削減により本来の営業的な価値を生み出す時間を捻出することにも繋がる。
また、情報システムを開発する場合に、事前に内在するムリ・ムダ・ムラを削減することが極めて重要である。その取り組みを省きムリ・ムダ・ムラが含まれたシステムを構築すると複雑で不要に大きなものになり、高額なシステム開発費用が必要となってしまう。
改善活動では、同じことが回数多く行われる作業や動作のムリ・ムダ・ムラを削減する。従って削減の為の手間やコストに見合わない改善は見送る。

改善ではいずれにしても仕事を変える事になる為、慣れ親しんだ従来通りのやり方を固執する人にこの活動に対する抵抗感が生まれることも多い。改善活動の導入から活動の継続には数々のハードルがある。それを乗り越える為には、経営者が現場作業の効率に眼差しを向ける必要があり、生産性を高めその成果を社員に還元することで組織への信頼に繋げ、その先に事業の価値を高めると考えることが必要である。

2.改善思考の醸成

 ムリ・ムダ・ムラを削減する為には基本的な改善の思考力が必要になる。その習得の為には「身の回りの2S」をする事が望ましい。

2Sとは整理・整頓を示したものであり、改善活動の基本となる「事の軽重」と「優先度」の判断のあり方を実感することを目的とする。
スポーツにも基本に当たるものがあり、体操競技における「倒立」がそれにあたるのではないか。技の習得を急ぎ倒立を疎かにすると技の習得の伸びは鈍るそうであるが、改善活動では2Sは「鍵」である。身の回りの机の中や棚を対象にし2Sのそれぞれの意味と効果を実感することで改善の基礎的な思考力を養う。

 「整理」は、重要度を判断し不要なものを捨てることであり、事の軽重判断は改善の基本である。しかし、家庭でも要不要の判断は難しいもので、「これは要るかもしれない」と判断することが重なると家の中は物で溢れかえる。判断の物差しが色々に振れると捨てられなくなる。ゴミ屋敷は困るが夫々の家庭で様々な判断があって良い。しかし、仕事ではそれぞれの職場である程度の判断の物差し(暗黙知)を整える必要はある。

「整頓」は、取り出し易いように並べ替えること。不要なものが手前にあり、頻繁に使うものが奥にあると都度入れ替える手間がかかり時間を無駄にする。これを整えるためには優先度の判断が必要となる。頻繁に使うものは手前に、あまり使わないものは奥や高いところなどに置くことでムダな時間が省ける。

 5Sの残りの3つのSの一つの「清掃」は改善活動的には不要な物を片付ける行動を指す。「清潔」は、清掃がされ良い状態を維持することを指す。そして「躾」は、清潔な状態を維持することを云う。
 5Sを重視し美しい状態に維持・徹底することに価値があることは多い。しかし、「身の回りの2S」では改善の思考力を身に着けることを目的にする。磨き上げ機能性を追求する事と、改善思考を実感する事は次元が異なる。
2Sでは、オフィスにおいては最も身近なデスクを対象に実行することでその重要性が身近に実感出来る。「なんだ!机を片付けろか?」と憤慨する向きもあるかもしれない。 初めから活動の枠にはめず、組織のムードが高まるように工夫してから行うことが必要。野球における走り込みや体操における倒立の重要性と同じことであると諭し、どこかの早いタイミングで取り組む事が必要である。

⒊ 課題の発見

 仕事のムリ・ムダ・ムラは殆ど気付かない状態で業務の中に潜んでいる。以前からやっていることであるだけに意識せずに継続していたり、必要な事の影にムリ・ムダ・ムラが隠れていたりする。誰しも好んでムリ・ムダ・ムラをやりたいとは思わないが、意識しなければ隠れてしまっていることが多い。

 隠れているムリ・ムダ・ムラを表に出し改善するのは難しい。普通は仕事の結果を目にするが、そもそも仕事の過程は表に現れ難い。見えるようにするためには努力が必要で 経営者、管理者、実務者のそれぞれにムリ・ムダ・ムラを表に出す意識と努力が必要となる。

1)経営者の意識の持ち様

 経営者は作業の過程は見えていないことが多い。しかし、トラブルやミスは経営者が目にすることもあり、作業の過程に潜む問題を掘り起こす好機でもある。ミスが起こり過剰な管理をするとムダな時間を生むことになるが、再発防止の為に原因を掘り下げると意外な問題を見出すことも多い。トラブルシューティングで終わらず再発防止まで掘り下げることが重要である。しかし、責任追及は委縮を生む。そうなるとトラブルやミスを隠すことにも繋がる。手順に潜む原因を明らかにすると改善となり、その作業が良くなることを理解させることが重要である。

 更に、自社が世間に比べ劣っているところがないものかを経営者は常に関心を払うべきである。過剰な捺印、介護離職に伴う戦力の喪失等、新聞等でレポートされている問題を自社に置き換え目を向けると改善の課題は見えて来る。逆に言えば世間が変化すると課題はそれにつれて顕在化する。従って、改善テーマは尽きることは無いとも言える。

2)管理者の意識を変える

 これまでやってきた当たり前を見直す意識を持つことで改善が進む。例えば昔は社内で現金を扱うことが多かったが、キャッシュレスにすることで現金照合の手間が省けた。 また、検印もルールの壁に突き当たることがあるが、経営者と共にその意味を問い直すと形式に囚われる意識も見えて来る。

 管理者が常に改善によってより良くする意識を持つと経営者以上に課題が見えて来る。 しかし、転勤族の管理職は現場に立ち入ることに遠慮することが多いので、そこから変える必要がある。

3)実務者の「つぶやき」

 実務を担う人達も職場において改善に対するポジティブなムードが広がると、実務レベルのムリ・ムダ・ムラに気付くようになる。しかし、ルールがあったり、過去から決まった事柄であったりすると変えられないと尻込みすることも多い。そのような時期には「つぶやき」と称して控えめに意見を募ると効果がある場合もある。
 この時に無記名の投書が良いとの意見もあるが、記名にしてその真意を聞き掘り下げることも大切でる。記名では意見を出すことに憚る気持ちが残ると考えるかもしれないが、無記名の批判が起こると前向きさを萎ませる。批判は別の機会や方法で受け止め、無記名で「つぶやく」雰囲気にすることが必要である。

4.改善活動の進め方

 小集団活動として枠にはめた形にせずに課題が見えた時に改善に取り組むやり方もあるが、PDCAサイクルを回す中で活動を進めると継続に繋がり、組織効率の向上が望める。

  1. 事務局を設け、年度経営方針において改善活動の基本的な方向付けをする。
  2. 半期毎に目的や目標等を明確にする。(「テーマ表」の作成)
  3. 半期のプラン(月毎の工程)を作成し、通常業務の繁忙期との調整をする。
  4. 毎月改善会議を実施し、改善テーマ毎に進捗を発表し、皆で意見を出しあう。
  5. 会議の終盤に事務局ミーティングで月の全体の活動を振り返る。
  6. 事務局は簡潔な議事録を作り、終了後に周知する。
  7. 期の終了後に活動結果を評価し、次期のプランに活かす。

5.改善会議について

 基本的には、各改善テーマのリーダーが活動状況を発表し、それに経営者がアドバイスし、更に自由に意見交換する。経営者が意見を出すとそこで意見交換が終わってしまうこともある。半面、激論にもなることがあるが、組織文化を考えた運営が必要になる。

 一方、ムリ・ムダ・ムラと感じていても上司が決めたことだから言い出せないこともある。上司の立場から必要だと指示された事でも部下からするとムダに見えることもある。
また、業務量が多くサービス残業に繋がっているケースもある。サービス残業はコスト削減には繋がらない為放置することもあるが、それは組織に対する社員の不信を生む。

上司と部下の仕事の必要性に対する判断に乖離があるケースやサービス残業の削減は、難しい問題であるが、改善活動の中で意見交換を続けることで「組織の空気」を変えることが必要となる。改善会議に関わらず社員が意見を出すことは難しい。しかし、経営者が人を大切にする努力をし、その姿勢を示すことで徐々に空気が変わり、社員の組織に対する信頼が芽生えると自主性が生まれる。これは単なるコストダウンよりも大きな価値となる。経営効率を高めるだけではなく、自主性を高め組織に活力を生むことが「人を創る」ことに繋がる。改善活動の目的はここにあり、組織と社員に恩恵をもたらす。